AM 7:00
ペルー・プーノという街のバスターミナルから出る、隣国ボリビアの首都・ラパスへのバスに乗車する。
所要時間は7時間。これは入国出国審査の時間も含めてである。
バスはほぼ満席だったが、幸いにも私の隣の席は空いていた。これは幸先いいスタートである。
広大な平地をバスの窓から見つめる。
国境越え...
その言葉は私たち旅人に脳内をえぐるようなインパクトを与える。
「慣れ」というものは恐ろしいもので20年間住んだ日本を離れて海外を旅している今でさえ、
その土地での「慣れ」が来てしまうと、カメラを向けるどころか、足を止めることさえしなくなってしまう。
この旅の始まり、ニューヨークにいた頃が懐かしい。あの頃は若かった。
ごく一般的な民家でさえ、私の目には非日常的な景色に移りカメラを向けたものだ。
それが今ではどうだ。日に日にカメラフォルダのファイルが減っていく。撮らない日だってある。
しかし、文頭で述べたように「国境越え」というものはそんな怠慢な生活から一転、
新たな刺激や感動を与えてくれる、言わば旅人にとっての活性剤のようなものなのだと、私は思う。
飛行機に乗り、雲の上の世界に身を委ねる。
しばらくして、着陸の衝撃で我に返る。
空港を出るとさっきまで見ていた景色とは大きく異なる世界がそこには広がっている。
人、言葉、空気、そして匂い。
特に私は、国ごとに変わる匂いが好きだ。
私の乏しい語彙力ではその国特有の匂いを文字として表すことは難しいが、
確かに十人十色ならぬ十国十匂がそこには存在している。
しかし、それはあくまで空路による国境越えの話である。
出国の空港を最後に、飛行機という密閉された空間に閉じ込められる、という過程があってこそ匂いの違いを感じることができる。
では陸路による国境越えは一体どんな感動を与えてくれるのだろうか。
島国日本に住む日本人にとって、陸路での国境越えというものはあまり身近ではないだろう。
私もこの旅での6カ国目にして初の陸路越えである。無論、人生初でもある。
2時間半ほど走っただろうか。バスが止まった。
添乗員が何やらスペイン語で話している。
おそらく、今後の手続きについてだろう。
詳細までは理解できなかったが、 現在道路を復旧中の為にバスが通れない為、歩かなければならないらしい。
私を含めた40人ほどの乗客はバスが止まったその地点から1㎞ほどを歩いてペルー側の出国審査へ向かう。
20分ほど歩くと、少し街に活気が出てきた。
(ペルー出入国管理局)
イミグレーションに関しては、やはり空港のイメージしか無い為、こんな建物の中で手続きを行うにはどうしても違和感が芽生える。
到着した時にはすでに出来上がっていた列の後ろに並び、その時を待つ。
しかし意外にもみるみると列は進んでいき5分ほどで私の番が来た。
バスの道中、添乗員に渡された税関の用紙とパスポートを片手にカウンターの前に立つ。
これまで様々な質問を受けたきた。
「どれだけ滞在するの」
「滞在の目的は」
「友達はこの国にいるの」
「なぜ、1人で旅しているの」
「兄弟はいるの」
等々、果たしてその情報が入国出国に必要なのだろうかと思うような質問も多々。
しかし。
今回は何も聞かれず、ただ
「がしゃん」
とスタンプを押されただけだった。
(またのお越しをお待ちしております:ペルー側)
心のどこかで審査員との無駄とも思えるやりとりを期待していた私がいたのだろう。
呆然として建物を出た。次はボリビア側の入国審査へ向かう。
この橋を渡るとそこはボリビアである。
橋の上には、物乞いをする人、物を売る人、走り回る子供たちで溢れかえっていた。
国境には警官が立っているわけでもなく、見た限りでは誰でも自由に行き来できる状態だった。
現に人力車の運転手は幾度も国境を往復し、人々を運んでいる。
(ようこそボリビアへ:ボリビア側)
ボリビア側のイミグレーションへ入る。
さすがに入国の際は何か聞かれるだろうと思っていたが、
結果は一緒だった。何を聞かれることもなく
「がしゃん」
とスタンプの音が虚しく部屋に響いた。
気がつけば、私はボリビアに入国していた。
「あぁ、俺ボリビアに入ったんだ。」
人も、街並みも、言語の変化も無い。匂いもだ。
変化を感じることのできない国境越えは決して私の心を満たすことはなかった。
しかし、私のパスポートにはペルーの出国スタンプが押され、ボリビアの入国スタンプが押されている。
確かに私は国境を超えたのだ。ただ実感がない。
いつものように新しい国についた時に無意識に行っていた深呼吸もしなかった。
バスの乗員が全員入国審査を終えた後、皆でバスへ戻った。
途中オランダ人のカップルが話しかけてくれたが、会話に花が咲くこともなく、ごく普通の会話をしただけだった。
バスに乗り国境の町から首都ラパスへ向かう。
明後日にはウユニ塩湖へ向かう。
この曇った気持ちをウユニで晴らすことができる。
そう信じて私は目を瞑った。
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